タイガー・ウッズに見るマナーの原点 2012年6月19日火曜日 16:34

 今年のマスターズは、ババ・ワトソンによる劇的なリカバリーショットでの大逆転優勝で幕を閉じた。最後まで諦めないプレーぶりが、世界のゴルフファンから共鳴を得たので はないだろうか。それにしても見事なインテンショナルフックでした。土壇場であのようなスパーショットが打てるようじゃないとメジャーには勝てないのでしょう。
 一方復活の優勝を期待されたタイガー・ウッズは、前週まで好調だったショットが全く見られず40位。今日こそタイガーチャージが出るのではないか、と毎日期待してテレビを見ていた筆者もがっかり。しかもそれ以上に問題だったのは、世界のゴルフファンの間に物議を醸すような事件をまた起こしてしまったのです。
 マスターズ2日目、16番ホール、パー3。さあ、後半に向け、タイガーチャージのきっかけになるか、と期待していました。ところが9番アイアンでピンをデッドに狙っていっ
たと思いきやピンから大きく離れ、右端のほうにオン。その瞬間その9番アイアンを投げつけ、さらにはずんだそのアイアンを足蹴りにしてしまったのです。これがテレビに大きく映り一瞬会場にも静寂があったように思われた。
 過去筆者もタイガー・ウッズの取材を何度も行ったが、クラブを投げつけるのは日常茶飯事、汚いフォーレターワードもかなり叫んでいました。そしてPGAツアーから、毎年罰金が100万ドルを超えていた、という事実もありました。米国のPGAツアーの罰金については非公開なので正確な金額まではわからないが、それほどタイガーのマナーが悪かったというのは事実のようです。しかしタイガーファンとしては、若さゆえ、とかプレーに熱中するあまりのことだから前向きにとらえて許してやろう、という雰囲気もありました。ゴルフ関係者に至っては、タイガーが勝ってくれればゴルフ界も盛り上がる、だからこの程度は許容範囲だよ、と公言していた人もいます。日本で言えば、レベルは違うが、
今の石川遼君のような扱いだったのです。
 しかしあの女性問題の後だけに、今は逆風。同じことをやってもかなりの非難の嵐になるのが世の中の常です。
 世界のゴルフの総本山R&Aの理事会でも今回のマスターズでのタイガーの所業は問題になったようです。
 そもそもどうしてこれほどゴルフというスポーツはマナーにこだわるのでしょうか?それは、やはり自己審判のスポーツだからでしょう。競技ルールを遵守し、すべて自己申告のスポーツ。スコアしかり、ルールしかり、自己申告によりプレーが成り立っている。つまりそれだけ自ら襟をただし、不正行為はしない、という人間性が求められるスポーツなのです。だからと言って何も堅苦しいスポーツというわけではない。相手を欺かない、裏切らず、ゴルフで一緒に楽しい時間を過ごすという基本でもあるからです。
 それではいったいいつ頃からこのマナーを基本とするスポーツになったのだろうか?
 ゴルフ発祥のころ、つまり15紀前後あたりのゴルフは、11マッチプレーしかプレー方法はなかったのである。だから当時のゴルフ場は、5ホールしかないとか、10
ール、25ホールなどバラバラのホール数だったのです。マッチプレーが基本だったから別にホール数は関係なかった。1ホールづつの勝ち負けだけだからホール数は問題なし。しかしマッチプレーゆえ、相手に気を遣うのは当然のこと、不快な思いをさせてはいけない、嫌な気分にさせてはいけないのが11の基本だろう。マナー遵守の原点はこのあたりにあると思われる。
 それが19世紀に入り、12ホールだったセントアンドリュースが改造により22ホールになり、さらにクラブハウス建設により18ホールになるにいたり、プレー時間やプレーの
流れが18ホールになると非常にスムースとなった。それでは、ということで、各ホールを何回でプレーしたかということを競い合うようになったのです。しかもこれだと2人だ
けのマッチプレーより、3人以上のプレーヤーが一緒にプレーでき、大勢の人たちが同時にプレーできるようになった、これがストロークプレーの始まりです。
 ところがこのストロークプレーだ11の戦う相手がはっきりしているプレースタイルではなく、相手は何十人と複数になる。一緒にプレーするのも複数になるから、気の遣
い方が違ってくる。戦う相手の顔がもろに見えるマンツーマンの時の気遣いが薄れてくるのは自然の成り行きだろう。これがマナーの悪さが目立つようになった始まりだろう、と
筆者は予想します。
 しかし自己審判という基本的なゴルフのマインドは変わらない。いくら相手が複数になろうが、一緒のパーティーでプレーしていないからと言ってこの基本的なマナーを守る必
要がないということにはならない。みんな明るく楽しく同じ時間を一緒に過ごすには基本的なルールマナーを守るのは当然のことなのです。
 今筆者一番心配なことはやはりこのマナー遵守するということが、薄れてきた時が、ゴルフの存続の危機になるに違いないと思います。一緒にプレーしていても楽しくなくなるからです。
 だから今回のタイガーの行為がどれだけ罪なことか、彼自身大いに反省する必要があるのです。近未来のゴルフ存続に関わるからです。