日本のゴルフは本物志向でいきたい。 2012年10月16日火曜日 13:47

 さる9月に開催された男子プロゴルフトーナメント、トーシンゴルフトーナメントで、珍しいプレーオフが行われた。なんと45ヤードといアプローチショット、しかも乗用カートのヘッドライトの明かりの中で行われたのだ。プレーしていたのは、期待の池田勇太と無名の中国人プロの呉何順。
 たまたまこの週は、3日目が大雨で中止、さらに最終日も雨で2時間以上中断。ホールアウトしたのは、夕方の5時を大幅に過ぎていた。当然プレーオフは、最初からホールを
ライトで照らしてスタート。最初のホールはイーブン。しかしかなり暗くなってきたのでトーナメントディレクターは、2ホール目から145ヤードの距離で行い、さらに3ホー
ル目は100ヤードにした。ここでも決着がつかず、ついに45ホールのアプローチショットにて勝負を行たのである。ここで池田のショットが大きくピンをオーバーし、呉がピンそばに寄せて、呉の初優勝が決まった。この時の池田のセリフが、「俺、鳥目なんですよね」というものだった。しかしこの結果はしょうがない。釈然としない池田も、これも勝負の結果とあきらめざるを得なかった。
 しかしながら、釈然としないのは、池田ばかりではない。翌日のスポーツ新聞がこぞって大きく取り上げた。
「どうして翌日にプレーオフを延期しなかったのか?」
 筆者のところにも何人か電話があった。
「ああいう場合は、やはり大会スポンサーが強引にやらせるの?もしくは協賛スポンサーが、賞品を抱えている優勝者の写真を撮らないといけないとか、そういう規定があるの?
真っ暗の中、45ホールの短いアプローチ合戦で1千万円以上もの賞金を獲得し、優勝というタイトルを上げるのは、ちょっと抵抗があるよね」
というものだった。
 筆者もその時は、そう思った。こういう場合は、トーナメントディレクターが、やはりスポンサー、そして開催コースと相談して、納得のいくプレーオフを行うべきだろう、と
思う。プレーオフと言えば、全米オープンなどは翌日18ホールで決戦を行うし、全英オープンは、4ホールのストロークプレーを続ける。どうして日本のツアーは、きちんとプ
レーオフをやらないのだろうか?
 そんな思いで釈然としないでいたが、翌日偶然に大会運営をしていたスタッフと会ったので聞いてみたところ、状況は違っていた。
 大会スポンサーもトーナメント運営関係者もみんな翌日にやるべきと思ったのだそうだが、コースとの開催契約書が問題だったのだ。
 それは、最終日の日曜日中に、トーナメントの看板やティーマークなど、あらゆる構築物、用品をすべて片づけるという契約だったというのだ。
 トーナメントの翌日と言えば、最終日と同じピンポジションのままプレーさせるコースが多く、大変な人気の日となる。同じラフの長さ、グリーンスピードを経験したみたい、
と殺到する。こういうゴルフファンで、開催コースも早朝7時過ぎから予約が入っていたという。しかしプレーオフは、最終18番ホールで開催されることが多い。いくら7時過
ぎに予約が入っているとは言え、トップスタートの組が18番ホールに来るには、2時間ほど後の9時過ぎ。8時からプレーオフを始めても全く問題にならない。しかし契約内容は、このような理由で結んだわけではないだろう。
 この開催コースは、バブル期に完成した、超という冠が付くほどの名門クラブ。コースも素晴らしいし、クラブハウスも日本一と言われるぐらい豪華な日本建築の建物だ。こん
なクラブだからよほど会員のパワーが強いのだろう。どうも会員が許さなかったという噂がある。
 しかしこれでは、日本のトーナメントは、まともなプレーオフもできない、と嘲笑されるのではないだろうか?
 運が悪かったのは、同じ週に開催された米国の女子ツアーで、人気女子プロのポーラ・クリーマーと韓国の選手がやはりプレーオフになり、なんと9ホール戦っても決着がつか
ず、結局翌日に持ち越し,その死闘に拍手喝采が起こったという報道があった。これと比較され、さらに非難を浴びてしまったのだ。
 確かにトーナメント開催には、クリアしなければいけない様々な問題がある。大会運営を担うスタッフはかなり苦労して一つのトーナメントを作り上げる。しかし考えてほしい。どうしたらゴルフファンが、我を忘れてテレビの前にくぎ付けになるような大会になるか、天を轟かすような地響きともなる歓声の上がるトーナメントにするためにはどうしたらいいのだろうか?ということを。
 筆者は、1989年ロイヤルトゥルーンで開催された全英オープンの4人により死闘を運よく目のあたりにした。G・ノーマン、M・カルキャベッキャ、W・グラディーによる
4ホールのストロークプレー。最初の4ホールで決まらず、もう一度4ホールとなった。時間は夜の8時。最後にノーマンが、グリーンオーバーし、カルキャベッキャが劇的な優
勝を飾った。ギャラリーは誰一人帰らない一進一退。この時日本からラウンドレポーターとして参加していた長島茂雄さんが、最後は涙を流してレポートをしていた姿が今でも脳
裏に浮かぶ。
 日本のゴルフは、意外とこんな手抜きが時々見られる。コース設計、日常のゴルフ場の運営、コースメンテナンスしかり。
 やはりゴルフに携わる皆さんは、何が目的か、ゴルファーを興奮させるコース運営、トーナメント運営、セッティングをもっと真剣に考えるべきではないだろうか?
 もっとゴルフの本物とは何かを真剣に考えることが必要だと思うが、いかがでしょうか?